復活へのリハビリ③基礎編続き(上半身を中心に)

第3回目は上半身を中心に、肩甲骨から腕、手と楽器に接触する指へ、体幹、演奏することへ向けてのリハビリトレーニングを紹介します。今日は長いです!

今回からは、より楽器を弾くことへのアプローチへ繋がっていきますが、一般的なリハビリにも役に立つことがあります。先ず、私がどれほど、日常的なことができなくなったか。

●ペットボトルや薬の蓋を開けられない。

●治療に関する署名を書くのに、手が震えてペンを握る力がなく、字がまともに書けない。

●体を起こす時に、腕の力が入らない。

前回の補足として、リハビリ全てにおいて、筋肉トレーニングは少しでも食事が取れないと行えません。水と栄養点滴しか取れない時期は、残っている脂肪や体力を削いでしまうため、ストレッチのみをしていました。因みに、私の比較的よく摂取できた食べ物は『蒟蒻ゼリー』です!これは、熱が出ても食べられた不動の品でした!体を動かせるようになってくると、タンパク質や炭水化物を欲するようになってきます。筋肉を付けることには、やはり「食べる」ということは、基本だと学びました。

さて、今日の本題です。

手のパフォーマンスをよくするために、肩甲骨の稼働をよくするトレーニングを、理学療法と作業療法の両者の先生から教わりました。私が思っていた以上に、演奏をする上で、肩甲骨を使っていることが、よくわかりました。そして、肩甲骨の稼働範囲は、かなり広いことを知りました。私は比較的、上方部分の肩甲骨の動きをよく使っていましたが、下方への肩甲骨の使い方を知ることによって、腕を閉じた時の奏法に安定を生むことを発見できました。また、腕を広げた時や、上腕ポジションを維持している時に、肩甲骨からを意識することによって、無駄な力みが入らず指の動きがよくなりました。この実験中は上腕の外側の腕のポジションを保つ筋肉も必要となり、両腕を大きく広げて、10秒、20秒とキープする練習を取り入れました。

これらの肩甲骨の動きをすると同時に、体幹も使うことは当然となってきます。ピアノという楽器は鍵盤が真っすぐに基本的には88鍵、並んでいます。そして、ペダルが基本的には3本。よく使用するのは2本。手はいろんな動きをしますが、腕もポジションは高音から低音まで、時には交差をしたりすることもあります。ポジションが早いスピードで変わることもあります。それらのポジションを体がブレることなく安定させて弾くことにより、体・指のコントロールが音色のコントロールへと繋がります。先ほどの腕を大きく広げてポジションキープと同時に、不安定なベッドに座って、足を浮かせて、片方の尻を浮かせてバランスを取ります。寝たきりの方は、起きて椅子に座って、更に背もたれを使わず、真っすぐに座るだけでかなりの疲労です。私は、少し元気な時には椅子に座る練習をしていました。退院して直ぐは、椅子に座ることも大変なことです。ピアノを弾くというより、座って体をキープさせておくことだけで、かなり体力を消耗しました。下腹部のインナーマッスルを意識することです。ベッドで上半身を起こし、足を浮かせて、両足を上下に動かすと下腹部のインナーマッスルが鍛えられます。これは、椅子に座ってもトレーニングできます。1月の収録の時は未だ、ピアノの椅子に座る時間を保つことが精一杯な時期です。収録までに1日トータル3時間は持つように毎日トレーニングをしました。上腕に関しては、更にラバーバンドを使用して、上腕の筋肉のみでバンドを引っ張るトレーニングをしました。調子がよい時には壁に手をついて、腕立て伏せをしました。

他には、脇の外側(背中側)の小さなインナーマッスル。肩腱板のトレーニング。こちらも、腕のキープや手のパフォーマンスに大きな役割を与えてくれます。ラバーバンドを使用して、指の力ではなく、小さな筋肉だけで地味にバンドを引っ張る練習です。意外と、この地味なトレーニングは汗をかきます。これらのトレーニングは使用している筋肉の意識、認識を持つことができました。

黄色の帯がラバーバンド。一番弱い力のタイプです。病院内売店で売っています。軟式テニスボール2個は握る以外にも、指先で点の位置をズラさずに縦に回転させる練習をしました。これは難しく、よいコントロールの練習ができました。グリップする機械はゴムの部分を外して、テーブルの上に立てて、押すという本来の使い方と少し違うやり方をしました。私にはそれが有効でした。

更に、指です。非常に慎重に取り組みました。手は危険も伴うからです。取り入れたくない動きは削除して、必要なことを「何故、そのような動きをするのか。」という詳細を常に考え、説明しながら、アイディアを先生と出し合いながら始めました。作業療法士の先生は手の「虫様筋」が大好きな先生(マニアックですね~!流石です!)で、手の細かな腱や筋について図解でも教えてくださいました。ピアニスト仲間達にも、相談しました。やはり、皆、思いつくことは同じで、「グー・パー」「ボールを握る」など。それらをどのように、意識を使って行うのかが大事だと思いました。ピアニストはいつも同じ動きをしないし、左右バラバラな動きを伴います。更にペダルも使います。なので、左右バラバラでグー・パーをしながら、足踏みをして、足のテンポと手のテンポはバラバラにして、リズムを作ります。手のトレーニングの時には、脳トレを沢山取り入れるようにしました。指令を幾つか同時に行う練習です。これは、ピアニストにとって、非常に大事なことです。ボールを握る時には、どの指を意識するか、掴むのか。左手の薬指、小指は非常に弱くなってしまいました。左手の筋肉は右手より筋肉が落ちるのが早かったです。なので、物を掴む時、トイレやシャワーのドアを開ける時は左手を使うようにしていました。歯磨きや食事も左手でしたこともあります。指先の掴む力が衰えた時には、作業療法士の先生が作ってくださった、ミニペットボトル2本をゴムで繋げたものを引っ張る練習をしました。そして、鍵盤の打鍵では、一時退院中、指先が赤く腫れあがったり、切れて出血したので、硬いものに当てる練習を始めました。日中の病室は人の出入りが結構あるので、ベッドの枠に指をカンカンと打鍵するように当てて、硬いところを見つけては打鍵するようにしていました。他には掴むための道具を少し改良して、負荷を極力少なくして、打鍵をイメージしながら指を動かす練習をしました。

指先でペットボトルの底を掴み、左右で引っ張ったり。片方の手で掴み、一本は床に向かってぶら下げて、手首を上下させる。等々、アイディア満載の作業療法士の先生の手作りの品です。

他にも数え切れないトレーニングを重ねました。ですが、いつも、「どのような音を創るのか」ということが念頭にありました。リハビリの先生方にも説明したり、話し合ったりする中で、改めて自分の体の使い方をシンプルに、無駄を無くしていくかということを考えさせられました。私の中では、「もとに戻す」というのではなく、「もう一度、ゼロから楽器を弾く体を作っていく。」という気持ちでいました。体重はゴッソリと落ちて、筋肉もゴッソリと落ちて、前に戻ることはありません。新しい体つきで、シンプルに無駄なく自然な体の使い方ができれば、どんなにいいだろうと思いました。だから、作業療法士の先生にも、「戻そうとは思っていません。新たに作っていきたし、新しい発見があればと思っています。」とお願いし、体の仕組みと筋肉の使い方を教えていただき、それが非常に理にかなった動きだと分かったときは、とても感動しました。私の考えていたことと合致することが幾つもあって、その度に高揚しました。

体が動かせず、辛い時には先生からの「筋肉と共に、乗り越えましょう!!」というメモメッセージが書かれた筋肉図に、涙が出るほど嬉しく、大きな力になりました。いつか、作業療法士の先生と、音楽家の体の使い方のワークショップなどもできたらいいなと、密かに思っています。きっと、皆さんにお役に立てることがあるのではないだろうかと。病気をして、初めて知ったこと、学んだこと、得たことも沢山あるのです。

今日はとっても長くなりましたが、次回はいよいよ、「音楽をすること。」です。

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