あれから四カ月
4月20日午前10:00に、リサイタルの中止発表をし、その日の午後に緊急入院となり、丁度、今日で四カ月になります。
入院当初は4クールを大体、8月末頃には終えるだろうと思っていましたが、9月末〜10 月上旬の本退院となりそうです。時間はかかってしまいますが、少しでも確実に治療を進めたい一心で頑張っています。
現在の3クール目は予想を越えた死闘でした。Facebookには乱雑な報告を投稿しましたが(重複がありますが、御了承ください)、感染症と肺の問題により、40度前後の熱を一日数回アップダウンを繰り返し、身体中が痛くて動けず、起き上がることも、寝返りもできない日々が10日ほど続きました。
感染症が生じる前に、今回3クール目の抗がん剤を5日間24時間投与の時点で、吐き気が酷く、落ち着いた矢先に、血球が下がり始めました。ついに、血球はカウント不能だらけになってしまい、私の身体は闘う術もなく、自分の皮膚やリネンについている常在菌にすら、やられてしまいます。そして、感染症になってしまうわけです。自分でも、どうなるのかと思うくらいに、心身共に衰弱しました。頑張っても頑張っても頑張っても、よくならない。
主治医の先生は、様々な抗生剤投与を試行錯誤してくださいました。血球が低く、出血のリスクのある身体に、一度抜いた首のカテーテルを再度、非常に手際よくスピーディーに入れてくださいました。必要な薬や栄養を投与するためです。リハビリの先生方は、私が身体を動かせないと分かっていながら、様子を見に、筋肉の図資料を持ってきて励ましてくださいました。看護師さん達は手厚く、しっかりと精神面もサポートしてくださいました。何度も泣きました。
友人や家族にも、弱音を吐き、心配をかけました。何度も泣きました。
留学時代の仲間達からはビデオレターが届きました。泣かされました。
もうダメかも…と何度も何度も思いましたが、その気持ちをいつも、拭ってくれたのは、励まして私を信じてくれた皆さんでした。
人の愛や温かさが、こんなに力となるのは、本当にすごい事です。ただただ、それに応えるべく、皆を信じて、死んでたまるかとギリギリのところで、踏ん張れました。本当に感謝しています。
今は嘘のように、血球の回復と共に、驚異的なスピードで毎日できる事がレベルアップしています。次の最終クールが怖くないと言えば、嘘になりますが、それを払拭すべく準備をしています。主治医の先生も、最善を尽くすべく、準備を進めてくださっているようです。
そもそも、音楽家は毎日コツコツと積み重ねていく作業は得意です。今回の治療では、音楽で学んだ事が役に立つ場面があり、面白いです。
先ほどのカテーテルを首に入れる時、咳が止まらない状況でした。しかし、体の振動は非常に危険です。主治医はそのため、スピーディーに進めるしかなく、私は彼の集中を強く感じ、本番の集中と同じようにしたら、咳はしっかり止まりました。本番中、くしゃみや咳や熱は何故か止まります。その感覚を久しぶりに思い出しました。
2日前から廊下を歩けるようになりました。リハビリ以外にも、一人で朝夕歩きます。それは、今の私には自信になるのです。やらない方が不安になるのです。練習で不安や疑問を拭っていくことは、私達には日常です。
リハビリトレーニングの先生方と、基礎体力以外に、弾くための身体作り、意識、脳から体への指令などを話し合い、沢山のアイディアと知識を得ることができます。非常に理にかなって、納得する場面が多くあります。これは、今後、私が楽器に向かう時に、大きな手助けになってくれると確信しています。
音楽を創っていく事と、私が生きていくことは同じだなと感じます。
『ピアノを弾く』という事は今はできなくても、今やっている事は、私にとって『ピアノを弾く』という事に繋がっています。
きっと今、ヨボヨボショボショボの身体でピアノを弾いたら、ろくに弾けないでしょう。死闘の最中は『ピアノはもう弾けないかも…』と思いました。でも、ほんの数日、前へ進むことによって、『また、弾ける。また、弾く。』に戻りました。正気になったのです。
そうやって思えるようになったのも、コロナで延期になった公演主催者や、音楽仲間達がこんなズタボロの私に、来年の予定をきいてくれたり、プログラミングや配信どうするかの提案がきたり、
「プロコのピアコン、オケパートの合わせよろしく!第九やるよ。」(どなたか分かる人にはわかる?!)とか。
「ラヴェルのピアノトリオ、こっそり練習始めた!」と呟いてくれたり。
譜読みをする曲が10 曲くらいあります。
皆が私の復活を前提にしか、話を進めない。有難いことに、こんなに私の生を信じていてくれているのに、逃げるようなことは、決してあってはならない。生きることの努力をすると決めたのに、負けそうになった自分を恥じました。まだまだ、足りなかった。
私は自分の全てを信じていなかった。
精神的に強い方だと思っていたけれど、まだまだ弱かった。
やっぱり、私は自分の力ではなく、皆さんの力で生かされているなと、日々痛感しています。
後1クール。逃げずに乗り越えて生きたいと思います。今回のように、何が起きるか、進まないことには、わかりません。抗がん剤を全投与し、少しでも再発率を下げられるように、徹底的に闘いたいと思います。皆と演奏したり、話したり、笑ったり、ご飯食べたり…したいです。
コロナで出来ない事が沢山ありますが、それでも、皆、前へ進むしかありません。
皆様の心身共の健康を祈りながら、
この場を借りて、皆様のとても温かい声援に心から感謝致します。
2020.8.20.
稲岡千架